密会は婚約指輪を外したあとで

「──そ…んなわけないだろ。あいつ、人妻だし」


一瞬言葉に詰まったあと、拓馬は鬱陶しそうに顔をしかめて否定する。


人妻……。

渚さんは独身ではなく、結婚しているんだ。


「じゃあ、さっきの男の人が旦那さんなんですね」


私の確認に拓馬は浅く頷く。


なぜか私はその事実にホッとしていることに気がついた。

安心する必要なんて、どこにもないはずなのに。


「でも、何だか奥さんの様子が変でしたね」

「ああ……喧嘩でもしたんだろ」


あの旦那さんは冷たそうで怖いオーラを出していたから。まさか奥さんはDVに悩んでいるとか?

だから拓馬はあんなに心配して……。


私は勝手に妄想を繰り広げてしまい、一人で冷たい汗をかいていた。

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