密会は婚約指輪を外したあとで

運転席側に引き寄せられ、すぐそばにあったのは拓馬の整った顔。

まるでキスをする直前のような距離に、私はただ戸惑う。

真っ直ぐに見つめてくる黒い瞳。

それを縁取る睫毛がかなり長いことに気づいた。


何……?

そう訊きたいのに、急激に上がっていく心拍数が邪魔をして声が出せない。



「──誰かに似てると思ったけど、気のせいだった」


しばらくこちらを見つめていた拓馬は、やっと私の手を解放した。



誰かって、渚さん?
まさか、ね。




車を降りたあともずっと、拓馬に掴まれた手首が熱を持っていた。


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