愁歌
「エドワードと会って、あなたが風邪で体調が悪いと聞いたので来てみたの。大丈夫?」
 マイクは前髪をかきあげながら笑顔を見せた。
 部屋に入り、マイクにベッドで休むように言ってから、彼女は台所に立った。
 日本人なら、こんな時お粥と梅干に限るが、マイクには根菜類を小さなサイコロ状に切り、土鍋でヴイヨンを加え煮崩れ手前まで煮て、最後に少量の葛を加えてみた。
 マイクのベッドの傍に持って行くと、
 「昨日から食欲がなくて、ミネラルウオーターばかり飲んでいた。ママが作ってくれたスープのようだ」
 マイクは一口、一口美味しそうに口に運び、全て食べ終えた。
 「明日もゆっくり休めば良くなるわ」
 「ありがとう。スープを飲んで身体が温かくなった」
 「マイク、遠慮せずにベッドで休んでいて。台所を片付けてから帰るから」
 裕子は彼をベッドに促してから再び台所に立った。
彼女はベーコンと少量のにんにくを加え、先程と同じようにスープを作り冷蔵庫には飲み物も入れておいた。
 裕子がベッドに近づき、マイクの額に手を置くと、熱が下がってきたようで優しい寝息をたて眠っていた。
 「マイク、もし体調が悪くなったら何時でも連絡を下さい。眠っているので黙って帰ります。裕子」
彼女はテーブルにメモを置いた後、マンションを出た。
 携帯電話で外国人講師が急病になったので見舞って遅くなったことを母親に伝えた。
タクシーに乗ると、裕子は解き放たれた緊張から虚脱感を覚えたが、興奮の残像を引きずっていた。
玄関のドアーを開けると、空腹を刺激するビーフシチューの匂いに包まれた。
 「母さん、お腹がぺこぺこなの」
 裕子は小走りで台所に向かった。
 「ただいまも言わないで子供みたいよ」
 と言いながら、母親はテーブルに食器を並
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