飼い犬に手を噛まれまして


 テーブルの上にあった私の携帯が振動する。

 一瞬ワンコからの連絡かと思ったけど、ワンコは携帯を持っていないし、私の番号を知らない。



『茅野? 何やってるんだよ。さっきから連絡くるの待ってたんだけど』


「郡司先輩!」


『待ちきれないから、迎えにきた』


「えっ?」


 急いで窓を開けてベランダに出ると、見慣れた黒いレクサスがハザードランプを点滅させて停車している。



『迷惑だったか?』


「全然迷惑なんかじゃないですよ! すごい嬉し……あの、建物の裏に来客用の駐車スペースがありますから、よかったら……」


『いいのか?』


「はい」



 ワンコを家出させても、先輩を受け入れてしまう。恋愛してる自分が、こんなにも卑怯な女になるなんて……



 
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