飼い犬に手を噛まれまして

コピー室の罠



─────「はぁ……」



 ため息は、コピー機が用紙を吐き出す音でかき消された。乱暴に機械から追い出された用紙が次々に排出トレイにたまっていく。




 今朝ワンコは、いつもの定位置でスヤスヤと眠っていた。何事もなかったのように布団にくるまって、黒いジャージで眠っていた。


「おはよ、仕事行ってくるね」と声をかけると、「……ふぁい」と返事。それから、「今夜バイト休みなんで……待ってます……」と言っていた。



 深陽さんの事、本当に諦めちゃうのかな?


 だとすると、もうウチにいる必要もなくなるし……実家に帰るのかな?


 うん。それが一番だよね。

 ワンコはまだ若いんだし、有名大学に通ってる。夜遅くまでクタクタになってバイトを続けるより、就職先を探してちゃんと将来のことを考えるべきだ。


 失恋はショックだろうけど、いつかもっと素敵な人と出会えるかもしれない。


 私みたいに、予想外の恋愛が幕をあけたり。人生って何が起こるかわからないもん。

 人生の先輩として、そう言ってあげよう。



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