飼い犬に手を噛まれまして


「これ、クライアントの航空会社が一切のダメ出しなしで一発オッケーだったらしいわ」



 郡司先輩って、やっぱりすごい。クライアントさんは我が儘で、徹夜でデザイン製作したものだってニーズに合わなければ、何度もやり直しさせられて挙げ句に契約切られることだってあるのに。



「この山口エリナ、最近すごい人気じゃない? だけど、郡司くんの依頼なら……て仕事受けたらしいの」


「えっ? まさか、この前先輩が撮影に呼び出されたのって……この山口エリナに?」



「あら、茅野。珍しく情報通じゃない。二人は同じ専門学校を卒業していて、当時から噂になってたみたいね」


 ポスターの中のずば抜けた美人の恋敵に目眩がした。

 無理だ……こんな女の人が本気で郡司先輩のこと好きだって言われたら、勝てる気が全然しない。



「何ショック受けてんのよ。前に化粧品会社のCMに出てた女優も、郡司くんの元カノだって話よ。

 うちの会社は郡司くんの元カノたちで潤ってるんだから」



 弱ってるところに、頭をハンマーで殴られたくらいの衝撃だ。

 今まで先輩が手がけてきたポスターやCMが頭の中でぐるぐると回転する。


 うわぁん、考えるだけで人間辞めたくなる。


 
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