飼い犬に手を噛まれまして

「ごめんね」


 ワンコはオロオロして困っていた。自分自身で、涙のコントロールができなくて歯がゆかった。

 ごめんね、と謝るたびに、首を横に振るワンコ。


 変な奴だって勘違いされたと思う。

 あのポスターは郡司先輩と山口エリナが作り上げたんだ。

 それがあまりに素敵すぎて泣けるんだ。




─────「紅巴さん、講演会終わりましたよ。帰れます?」


「……うん、泣いてごめんね。ワンコはこの後大学に残るの?」 


「いえ、なんか理由がありそうだし、一緒に帰りますよ。飲みにでも行きますか?」 


「ほんとっ?」


「行きましょう。俺、ただの飼い犬なんで愚痴くらい聞きますよ」


 ガヤガヤと賑わう講堂で、ワンコに手を引かれて歩く。人にぶつからないように、さり気なく手を引いてくれるワンコに頼って歩く。


 年上なのに、私がやってることって全然大人気ない。


 泣きはらした顔が恥ずかしすぎて情けなくて、私は下を向いて歩くしかなかった。







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