飼い犬に手を噛まれまして


「茅野。お疲れ」


「郡司先輩! 今、出社ですか?」


 社員が行き交う通路でも、先輩は抜群の存在感だ。


「ああ、クライアントのとこ寄ってから来たからな。それより、顔色真っ青だぞ」


 先輩の手のひらが額にそえられる……体がびくんと固まった。周りからは冷やかしの声。
 この前の一件で会社中に私たちの関係が知れ渡ってる。

 目の前の優しい顔は心配そうで、薄い茶色い瞳はそっと私を見つめてきた。


「茅野……体調悪いなら無理するなよ?」

「大丈夫です。ありがとうございます」

「それなら、いいけど。心配だから」


 おーい、郡司仕事中だぞ! と企画課長に声をかけられて、先輩は「今、行きます」と返事した。


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