飼い犬に手を噛まれまして
────和香と、別れて環状八号線を歩いて帰ってきた。こんな時間なのに、道には溢れる程の車がいて、その道沿いには外観の洒落たマンションが建っている。
西側から二番目の部屋には、明かりが灯り……よって、ワンコはご在宅なわけで……
先輩に内緒で飼ってるワンコ。私の不安は自分の中にある。先輩に問題があるわけじゃない。ちゃんと付き合いたいなら、先輩を疑ってばかりいるんじゃなくて、私はまず自分の中途半端な行いを見直さなきゃいけないんだ。
ワンコのことは、恋愛とは少し違う。同情っていったらワンコは怒るかもしれない。だけど、先輩と会えない寂しさを紛らわしたり、不安だからって自分の都合だけで傍に置いといたらだめだ。そんなこと、わかりきってるはずなのに、弱いな。
出てってもらおう……深陽さんのこと諦めたなら、ここにいる理由ないし。ずるずると同居していても良いことなんてない!
「ただいまー」
「おかえりなさい! 紅巴さん、遅かったですね!」
ワンコは、せっせと食器を洗っていた。頭にタオルを巻いて、昨夜飲み散らかした後片付けをしてくれていたみたいだ。
ゴミ捨ても、テーブル拭きも、居酒屋でバイトしているだけあって手際がいい。
「ねえ、紅巴さん。もし、よかったらマジで髪切ってくれませんか?
最近、邪魔だし。これからあったかくなってきますからね」
「髪は無理だよ。あ、朋菜にお願いしてあげようか? 朋菜、そういうの上手なんだ」
だめだ。
これじゃ、またワンコペース。