飼い犬に手を噛まれまして



 不安と期待で先輩を見つめ返す。

 ずっと憧れていた人。手が届かない雲の上の人だと思っていたのに、今はこんなに近くにいて、私をたくさんドキドキさせてくれる。

 先輩が本物の王子様になる。私をお姫様にしてくれる、たった一人の王子様だ。

 片膝をついて、真面目な顔で、赤いベルベットの小箱を手にした先輩……




「結婚しよう、紅巴」





 そして、確かに愛を囁く。
 信じられない……まさかの、プロポーズ。


「わ、私でいいんですか?」

「紅巴がいい。愛してる。今日は何が起こっても伝えようと思っていた。紅巴だけだ、俺をこんな気持ちにさせてくれるのは…………

 答えは、はい、だろ? 紅巴頷いて」


 あの郡司先輩が、この私と?
 でも、先輩の腕は私だけのために開かれた。飛び込んでこい、と、全部受け止めるから、と訴えてくる。
 色んなことに巻き込まれて、振り回されて、反省ばかりの人生だけど……


 飛び込んでいいよね?

 甘えていいんだよね?




「………………………はい!」


 

 先輩の腕に飛び込み、左手の薬指に光るダイヤモンドの指輪が今日から私の新しい印になる。




飼い犬に手を噛まれまして
THE END
2012 6 14 西島美尋




< 377 / 488 >

この作品をシェア

pagetop