飼い犬に手を噛まれまして

 掃除や洗濯、料理、それに買い物は全部星梛がやってくれていた。専業主夫みたいだね、って言うと『こっちのほうが向いてるみたい』って笑ってた。


「適当でいいよ」


「ダメよ、毎日部屋にいるからってカッコ良くいてくれないと追い出すからね」


「げっ、マジで?」



 星梛は眉間に皺を寄せた。


「本気よ」



 毛先を丁寧にすいていく。綺麗なフェイスラインが際立つように、丁寧に。幼くなりすぎないように、注意しながら……自分好みの髪型に変えていく。


 星梛と出会ったのは、大学生の頃。星梛は新入生の中でもずば抜けて可愛い後輩で、一目惚れだったのかもしれない。

 私から声をかけて、私から告白して、私好みに星梛を変えてきた。


 おかげで年上の女に甘えるのだけは、とびきり上手になっちゃって、これじゃあ魔性のひも男だ。


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