飼い犬に手を噛まれまして


 私好みの髪型になった星梛は、短くなった前髪を指でいじりながら「かっこいい?」と首を傾げた。



 最高に、かっこいい。



 だけど、素直になれなくて、「自分で鏡みてよ」と冷たい態度をとる。



「みはるは、髪切らないの?」


 私の長く伸びた毛先を、星梛が指でつまんだ。



「いいでしょ、別に……面倒くさいだけよ」


 ハサミをケースにしまって、切った髪をダストボックスに捨てた。



「はやく寝ましょう。星梛は、暇でいいけど、私は明日も忙しいんだから」


 傷つけた……かもしれない。星梛の顔をみれずに寝室に逃げ込んだ。



 みはるの髪すごい綺麗だね。俺、大好きだよ─────と付き合いはじめた頃、星梛が後ろから抱きしめて、私の髪にキスをしてくれた。


 あれ以来、一度も髪を切っていない。



「みはる、一緒に寝ていい?」


 星梛がいると夜は一瞬だ。抱きしめられると幸せすぎて、永遠に朝なんて来なくていいと思ってしまうのに……



「……す、好きにすれば!」


 素直になれなくて、ごめんね。


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