飼い犬に手を噛まれまして

「社長、お客様がお見えです。社長がこちらの支社にいらしているなら、是非ご挨拶だけでも、とのことで」


「わかった。すぐに行くよ。みはる、後で昼食でも一緒にどうだ?」


「はい、お父さん」



 父は目の端にシワを寄せて笑う。優しい父が大好きだし、尊敬もしている。


 私のオフィスから父が出て行ったの見計らって、コードレスフォンを手にすると、また自分の部屋に電話する。


 こんなことなら、星梛に携帯電話を買い与えておけばよかった。



『ハイ』


「星梛! よかった、連絡とれて」


『みはる? どうしたの、慌てて』


「説明は後でするから、今からメモして、いい? 間違えないでよ。ハイアットタウンホテルの729号室、今からタクシーでそのホテルに向かって部屋から出ないで。部屋は私の会社の名前で予約してあるから、フロントで、イーストエージェンシーって言うのよ。いい? わかった?」


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