華〜ハナ〜Ⅲ【完結】




***





「……戻り、ました。」



暗い暗い、塔の中。

最奥に、ただ2人しか入れない部屋がある。

ずっと逢瀬に使われることなく閉ざされたままだった部屋。



全てを取り戻した少女は、何故だか迷わずその部屋に向かった。




「……っ、」




その部屋にいるのは。

少女が何よりも愛した最愛の人だ。




「……おかえり、華…」

「……っ!!」



華はその人の胸へ飛び込む。

羽のように軽やかに。

重力などないように。


そしてその人もまた、壊れそうなものを大事に、丁寧に扱うように。

けれど力強く受け止め、抱きしめた。




「おかえり、おかえり…。」



最初に愛した姿に戻った少女を、抱き締める。

少女もまた、全身の全ての力をかけてその人を抱き締めていた。



___離れたくない。



二人の想いは、同じだ。



声もあげず、音も立てず。


2人は涙を流しながら何時間もそのままだった。






……2人には、幸せなど必要ない。


全てを捨てることは、最初に命を奪った時に受け入れたのだ。



そんな、2人でも。


そのひと時を幸せ以外の何者でもない、と思った。




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