糖度∞%の愛【編集前】

とりあえず何か用があるのかと無言で首を傾げてみるけれど、部長は頬杖をついたまま笑顔で片手を顔の前でヒラヒラと振った。


用は、ないらしい。

でもすこぶる機嫌がいいらしい。


そんな部長の変な様子が気になりながらも、中途半端な体勢で止まっていた身体を椅子の上に降ろしてパソコンを立ち上げる。


いつもの様に社内メールに目を通して、一通り読み流してもやっぱりこれと言って重要なことはない。


でもこの社内メールが以前よりも好きになったのは、彼方がこれを使って宣言してくれたことがあるからだ。


もしプロポーズとかされるとしたら、これを使ってしてくれたらとっても感動するかもしれない、なんて柄にもなく夢見がちなことを考えたりもする。


読み終えてそのウィンドウを閉じてから、きょう提出予定の書類の仕上げに取り掛かる。


画面から視線を反らさず手を動かすこと1時間ちょっと、完成した内容を何度も見直して誤字脱字もチェックした私は、一区切りついたから両手を上げて伸びをする。

集中しているときは気にならないのに、集中が切れたとたんに固まった身体に気が付くんだから、人間の集中力って凄いよなぁ、なんて思っていると「美崎さん、3番に森田さんからお電話です」と声がかかる。

私の受け持つ顧客で森田という人は一人しかいないから、名字を聞いただけでどこの会社なのかは分かるんだけど、どうしてそう声をかけてくれた人はそんなにもニヤニヤしているんだろう。

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