白い初恋
白い初恋
 祖母の話を炬燵に入ったまま聞き終え、正悟(しょうご)はまず逢いたいと思った。
 妹の佳苗(かなえ)はあからさまに怯え、従兄弟の卓(すぐる)は馬鹿にしながらも鼻の穴を膨らませているが、二人とは根本的に違う気持ちが胸の中を漂っている。まるで昨日間違えて口にした鮨が蘇ったみたいだった。八回目の正月で初めて食べたわさび入り。
 鼻の奥ではない場所がつん、としていた。
「ねぇ、おばあちゃん。どうやったら雪女に逢えるの? 」
 話し終え、佳苗を抱きながら微笑んでいる祖母に、正悟は思い切って尋ねてみた。
 祖母が答えるより早く佳苗が眉間に皺を寄せながら震える声を上げた。
「おにいちゃん。雪女にあいたいの? あったらこおっちゃうんだよ。しんじゃうんだよ」
「でも……」
 言い返そうとする正悟を祖母は制し、ゆっくりと小泉八雲の雪女を語ったときのように答えてくれた。
「おばあちゃんは会ったことがないからねぇ。わかんないねぇ」
「馬鹿だな正悟は。お話なんだよ。雪女なんているわけない」
 続けて卓が口を開き、正悟は祖母が何か言ってくれるかと顔を向けたが、祖母は困ったように笑っているだけだった。
 正悟はもう何も言い返さなかったが、それこそわかんないじゃないかと思っていた。
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