真実の永眠
03話 試合
 試合がもうまもなく始まるという頃、レギュラーと控えを抜いた残りのバレー部員が、ぞろぞろと体育館の二階へ上がって来た。恐らく応援の為だろう。その中には、気になっている例の彼もいた。
 彼との距離は、七m程か。割と近い距離ではあるけれど、何せ人が多い。彼はバレー部員の中に埋もれていたし、彼との間には何人も一般の応援客がいる。その為、彼を間近で見る事は困難だった。
 チラチラ彼を伺う訳にもいかないし、試合を観ずに他所を向いていたら、明らかに不自然だ。
 彼の事は気になるが、試合観戦と応援に集中する事にした。今日の試合結果で、明日も試合が行われるか否かが決定するのだから。私の場合、応援じゃなく、明日も彼に会いたいという邪な願いではあるのだけれど。
 試合はもう、始まっている。
 早速T高校は試合に出ていて、その中に麻衣ちゃんの彼もいた。
 ふと、隣にいる麻衣ちゃんを横目で見た。彼女の顔は、彼の活躍に何だか嬉しそうだ。
 そうだ、麻衣ちゃんだって、本当は私と同じなんだ。
 麻衣ちゃん達は、遠距離恋愛と呼ぶ程に距離は離れていないが、それに近い関係にある。だから、麻衣ちゃんだって明日も彼に会いたいと思っている筈だ。そうでなければ、毎回試合に行くなんてしないだろう。純粋に、彼には試合に勝って今年も全国大会まで行って欲しいと願っているのだろうけども。その為に皆、頑張っているのだから。
 恐らくこの試合は全国大会とは無関係なのだろうが、ここで結果を残すに越した事はない。それに、勝利を多く残せば、シード校として扱われるだろうから、やはり全国大会を目指すなら有利なのかも知れない。
 その辺は、私はあまり詳しくないけれど。
「麻衣ちゃんの彼、凄い活躍してるね」
 そう言うと、麻衣ちゃんは自分が褒められている訳でもないのに、照れ臭そうに笑った。
 素直に凄いと思う。全国大会出場を何度も果たし、部員数も多い中、試合中交代の殆どないレギュラーとして、今まさに活躍しているのだから。そんな彼を、きっと麻衣ちゃんは誇らしく思っているに違いない。
「付き合う時、告白は彼からだった?」
 麻衣ちゃんの彼をぼんやりと眺めながら尋ねた。
「どうだっけ? 普通に付き合おっかみたいな話になって……」
「そうなんだ」
 麻衣ちゃんを見ると、何だか嬉しそうな表情をしていたので、本当に何だか以前に比べ、変わったなぁと思い、微笑んだ。



 T高校のバレー部員、大人数である事も関係しているのだろうけれど、まるで応援団が応援しているのではないかと思う程の声の大きさだ。強い部活は声出しから、とはどこかで聞いた事がある。T高校はきっとそれだろうと思わせた。他校はきっと、あの応援に圧倒されているのだろう。まるでアウェーだ。
 例の彼を、ちらりと盗み見た。
 距離は縮まっていないのだけれど、応援に疲れて座り込んでいる人のお陰で、彼がよく見える位置にいる。結構背が高いのだと知れた。今までは上から下を見下ろして彼を見ていたのと、周りのレギュラー陣の背が高過ぎる所為で、彼の身長はあまりよく分からなかった。小さい方なのかと思ったくらいだったが、今見た所、あれは百八十cm近くありそうだ。
「みんな背が高いよね、麻衣ちゃんの彼は何cm?」
「百八十三cmくらいだった気がする」
「へぇ、やっぱり高いね」
「うん、背が高いとカッコイイよね」
「私は背が低い方が好きかな」
「え!? そうなの!?」
「うん」
 心底驚き意外そうな顔をしながら、麻衣ちゃんはそうなんだーと言った。
 二人で話をしたり、考え事をしている間に、試合はどんどん進んで行った。圧倒的な強さに感嘆の声を漏らす事もあるけれど、あまり面白くない、それが正直な感想だった。
 その強さの前では、殆どの学校が弱く見えてしまう。もっとこう、接戦になるくらいの試合を見てみたい、そう思ってしまった。頑張っている者に対し、こんな考えはとても失礼極まりない事だけれど。
 しかし、そんな思いを抱いていたのは、私だけではなかったらしい。
「やっぱりT高校の前ではどの学校も弱いね~」
「今年も優勝はT高校かな」
「T高校といい勝負出来るのは、準優勝のS高校くらいだね」
 応援客の中から、そんな言葉が耳に届いた。
 つまらなそうな声色ではなかったし、寧ろ楽しそうに、どこか誇らしげに話していたので、T高校の誰かの保護者ではないかと思った。
 T高校の部員を、個人名で○○君頑張ってー! と応援していたし。
 ――試合結果は、もう分かり切っていた。



 本日全ての試合が終了した。
 明日試合をするのは四校。その中には勿論、T高校も入っている。
 明日も会えるんだと思うと、嬉しくて仕方がなかった。
 けれども、見ている事しか出来ず何も行動出来ない自分をもどかしく感じていた。だから、
「勝って良かったね。明日も会えるね」
「うん」
 嬉しそうに笑った麻衣ちゃんの言葉に、私は寂しさをどこかで感じながら、小さく返事をするだけだった。
 帰ろうとする頃には、人がかなり少なくなっていた。応援客もゾロゾロと帰路に着いているし、試合に負けてしまった学校は、負けた時点で終了だから、すぐに帰る学校が多い。
 特に遠方から来ている学校は、バスや汽車の時間の都合で、全ての試合終了まで観たくてもそれが出来ない。
 T高校の様子を見てみると、部員全員が集まり、監督の話を聞いている所だった。雰囲気から察するに、試合の反省と明日の予定の事だろう。
 それを横目に私達も帰路に着いた。






 景色が動く。
 ガタンゴトンと、汽車が揺れる。
 お互い疲れていた所為か車内での会話はあまりなかった。しかし麻衣ちゃんは、試合を終えた彼とメールをしているようだった。
 私は色んな事を考えながら、ぼんやりと外の景色を眺めていた。
 明日の試合会場は今日よりも更に遠くなる。今日は汽車で二十分、明日は一時間ってところだ。
 目的の駅で下車し、明日の約束をして、お互いに帰路に着いた。
 明日は素敵な出来事があるといいな。そう願い。疲れた身体を、今日は早めに休ませようと決めて、家路を辿った。
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