時計兎
彼女の両親は世界を股にかける写真家のため、全く家にいない。

娘の世話など家政婦に任せていて関心さえ持たない。

その背理する両親が今冬、家に戻る予定だった。

彩夏は素直に喜び、その帰りを待った。
失った宝物の帰りを待つように、愛おしむように。




本当に楽しみにしていた。



それを踏みにじる父親の知らせ 



十歳の可愛い娘に対する行動とは思えない。

それに最後に帰ってきたのはいつだったか、まるで思い出せない





『寂しい』

『構ってほしい』

『側にいてほしい』

『独りぼっちにしないで』


もどかしい気持ちが力を得て、自分の反抗心を回転させる。
そして、たちまちのうちに自分では抑え切れないほどの激情へと膨れ上がった。



家出してやる



涙で赤くなった眼を拭い、小学生のささやかな反抗を決意した。
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