*硝子*【短】
その日から、仕事を早めに終えて
倖の病院へ掛け付ける毎日。

正直、疲れているが倖の側を
離れる訳にはいかない。


倖だって私が居ない間、
心細いはずだ。

私はそれを我慢させている。


「ねぇママ」

「ん?何?」

「ママのお膝の上に乗ってもいい?」

「・・・・・」
「いいわよ、おいで」


なんて温かい。
これが普通の親子なの。
温かみを感じる。
なのに─・・・

何故、倖なの?
倖は何も悪いことなんて
していないのに・・・!

目の奥が熱くなってじわっと
何かが出て来る。


涙─・・・

「ママ?どうしたの?」
「どっか痛いの?」

「うぅん、大丈夫よ」

「目にゴミが入っただけだから」


嘘をつく。
倖はまだこんなに小さいのに
倖はこんなに優しいのに


世界は冷酷だ、非道だ・・・。

「ねぇ倖・・・」

「なぁに?」

「ママがママでよかった?」

「・・・・・?」
「ママ・・・?」


倖が私を心配そうに見つめる。

「ゴメンゴメン、嘘だよ」
「って意味分かんないよね」


そう言っても倖の心配そうな
表情は消える事が無かった。


「倖─・・・」

私はぎゅっと倖を抱きしめた。
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