カリソメオトメ
 今ではパパとの関係があたしにとって一番嫌な記憶だ。何しろ、一番金を払ってあたしを買っていて、一番あたしを抱いてきた男だからだ。きっと、あたしの身体の性感帯を、彼は誰よりも知っているはずだ。

 それはあたしの中でどす黒い感情になる。思い出したくもない、本当に消し去りたい記憶だ。もうあたしのことを一番知っているのは、アキラでなくては我慢できない。

 殺意すら湧いてくる。自分が撒いた種なのだからそういう結果があるのは分かっているけど、そんな簡単に割り切ることなんてできない。

 この苦しみがあるからこそあたしはアキラに出逢えたし、アキラを好きになったんだと思う。こういう苦しみや悲しみを覚えたからこそ、アキラみたいな極端に個性的な男性を好きになれた。

 だからある意味で、あたしはパパに感謝すべきなのかもしれない。もちろん、そんな感情を抱けるほどにパパに想いなんて残っていないから、きっとこれからも軽蔑してしまうだろう。

 ただひとつだけ分かっていることは、彼はあたしを手放したくなかったということだ。あたしがもらっていたおこずかいの額はそんなに小さな額じゃない。それを倍にしてでもつなぎとめようとしていた。それだけは確かな事実だった。

 不意に、あたしの脳裏にパパの笑顔が浮かんだ。アキラとはどう見ても正反対。ある会社のお偉いさんで外車に乗っていて、いつもブランドのスーツを着こなして時間も厳守、あたしと愉しんでいても仕事の電話には必ず出るし、あたしに対してでも女性としてのエスコートは忘れなかった。

 アキラみたいな獰猛さも凶暴さもなかった。でも、アキラみたいな澄んだ純粋さもなかった。
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