カリソメオトメ

11

 ずっと彼の寝顔を見詰めていた。気付くともう深夜の一時を過ぎようとしている。二二時頃にはアキラは寝てしまったので、もう三時間もこうしていることになる。

 それでも、彼の寝顔を見飽きることはなかった。ただずっと抱き締めて見詰めているだけ、たったそれだけなのに、少しずつ変わる彼の寝顔が可愛くて眠るのがもったいないと思ってしまう。
 なんて無邪気な寝顔なんだろう。あ、よだれ垂らしてる。なんだか小さな子供みたいだ。

 あたしは優しい気持ちの中で彼を見詰め続ける。それは幸せを意味していて、そしてあたしがどれだけ彼を好きなのかを表現していた。
 こんな幸せ、あたしの人生できっと何度もないだろう。いや違う、アキラと一緒にいれば、何度も味わえるはずだ。それって凄いことなんじゃないかな。あたしはずっと幸せを感じていなかった。あたたかさも、柔らかさも、やさしさも、甘さも、弱さも、何もない、何もかもに飢えていた。

 そんな飢えが、この二日間のアキラとの触れ合いで満たされてしまった。もしかしたら、あたしが単純なだけなのかもしれないけど、それなら単純なままでいいと思う。

「どんな悪意からも守る」と言ってくれたアキラ。それはあたしにとって愛の告白というよりも、あたしという存在の全てをアキラの愛が包み込んでくれる、そんな意味に思えた。

 まあそれはあたしの思い込みだと思う。好きとか愛しているとか、付き合うとか付き合わないとか、そんな言葉さえもまだ言っていない関係での言葉なのだから。

 でも少なくともあたしはアキラとつながっていると思っている。言葉が全てじゃない。言葉が欲しくなることだってあるだろうけど、今のあたしには必要ではない。
 それを教えてくれたのも彼だった。
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