彼女志願!

そして彼は持っていた紙の束やPCをテーブルの上に置き、確かめるように私を見つめる。



「ああ……お茶もお出ししなかったようですね。本当に申し訳ない」

「い、いえ、いえ、その……」



確かにいつもなら、アルバイトの女の子がお茶を出したり、もしくはすぐそばのカフェからおやつやコーヒーを買って持ってきてくれたりするんだけど、今日はまぁ、とにかく忙しいらしく、誰も売れない作家の私に構ってくれないというかなんというか――

あ……「売れない」は余計だったかも。

まぁ、とにかく忙しいことは間違いない。



「すぐに買ってきますから。お待ちください」

「そんなお構いなく!」



と、椅子から立ち上がって彼を止めようとしたのだけれど、穂積さんはすぐに打ち合わせ室を出て行ってしまった。



「いいのに、そんなに気を遣わなくても……」



思わず本音が漏れる。


穂積さん……会社にいると、100パーセント担当編集の顔してる。

こういうとき、素の穂積さんを見せてはくれない。


だから時々、錯覚しそうになるんだ。

私と穂積さん、つきあってるんだよね、夢じゃないよね?って……。




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