そしていつかの記憶より

24話

いつかが事故に遭った数日後、文人くんと、部活の先輩の方が家に来た。


「おばさん、すみません。お邪魔します」
「ふ、文人くん・・?どうかしたの、・・あっ、荷物か何か忘れてた?」


そう聞くと、文人くんは首を横に振った。


「じゃあ・・?」


私がそう不思議そうに聞くと、後ろで黙っていた、温厚そうな彼・・藤谷くん、って言ったかしら?彼が変わりに答えてくれたわ。


「すみませんっ、あ、あの、お父さんも居ますか?文人が話あるみたいなんです。」
「ええ、・・・あ、とりあえず中に入って、お父さんも呼ぶから。」




リビングに通すなり、文人くんは私たちに土下座をした。




「あのっ、・・このたびは、俺のせいで・・・そのっ!!」


あの日から何度も聞いた、文人くんの謝罪。
私たちは、本当に文人くんが悪いとか思っていない。


「ふっ、文人くんっ!?」
「文人くん。顔をあげなさい。私たちは本当に、何も君のせいだなんて思っていないんだ」


お父さんも、そう不器用だが優しく言った。
隣に居た藤谷くんは、おろおろしていた。




「それで、あの。提案なんですけど・・・ケジメをつけたいので、彼女と別れようと思っています。」




「いつかと、別れる・・?そんな、文人くん・・・?」
「・・・。」


お父さんは、鎮痛そうな面持ちでその話を黙って聞いている。
文人くんは、土下座から体制を変え、正座をして言う。


「いつかは記憶を失っていますよね。だから、俺との関係のことはなかったことにして、教えないであげてください。
後、できれば部屋にある俺との写真とか、・・・処分、したいんです」


文人くんは心底悲しそうにそう言った。
真面目な性格なんだろう。それゆえ、譲ることができない。


お父さんそっくりだわ。全く。




「・・・文人くんが言いたいことは分かった。でももし・・娘が記憶を取り戻したらどうするんだね?」




お父さんが、そう寂しそうに言った。
お父さんも何だかんだで文人くんを気に入っていたから。

「その時は・・・いつかの好きにさせてあげたいです。
でも、付き合うことは・・・、俺なんかと付き合って彼女にまた、もしものことがあったら・・俺・・・」



文人くんは、そう言ってから俯いて、肩を震わせていた。
お父さんは彼の肩にぽんと手を置いてから、いつかの部屋に連れて行った。



それから数時間して、文人くんは思い出の品をまとめて、
私たちに深くお辞儀をしてから家を出て行った。
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