恋しても、愛しても、夢は見ないから
『じゃあ、行きますね。』
彼女はくるりと翻り
青年の方に走っていった。
それをただ見ていた。
複雑な気持ちだった。
女子高生の気まぐれに
翻弄された馬鹿なおっさんだな。
短くなる煙草の熱が指先に近づいて
現実に引き戻されたようだった。
青年は軽く会釈をして
彼女の背中を包むように
そっと手を添えた。
それがとても優しくて、
段ボールの中の猫が目の前で
自分より優しい人に拾われてくのを
みているようだった。