あいなきあした
野狐禅の如く禁欲を続けていたが、ヒロミが勝手に住みはじめて半月ほど、足りない材料を買出しに出ていると、買い物を終えたスーパーの軒先には人だかり。夏の激しい夕立に人々は急ぎ足を止められたものの、激しい雨足に一瞬の涼を感じているようだった。
口惜しいが俺はその輪には加われずに、開店前の店にスコールをかき分けかき分け、ずぶ濡れで店までたどり着いた。買い物袋をアキラに渡し、二階の倉庫に雨をしたたらせながら着替えに上がる。
「ん?」
完全にアキラにハメられた…。夕方、いつもアキラと一緒にまかないを食べに来るヒロミが、一糸まとわぬ姿で濡れた髪を乱暴に、店のごわごわしたタオルでかき混ぜていた。ヒロミは、俺に気がついても恥じるでもなくつかつかとにじり寄り、耳元で、
「そういうの、ボクネンジンって言うんだよね…。」

 女にはもう何年も触れてこなかっただろうか…俺はその姿や全ての所作がまるではじめてのような感覚で、いつのまにか、食い入るように強く貪っていた…。
永遠のような一瞬を重ね合わせ、俺はなすがまま、なされるがままに果てた・・・。

ヒロミは獲物を捕えた女郎蜘蛛のような表情で俺を見下ろし、
「あとで、ね。」
俺の着替えを着込み、なぜかアキラが二人分用意したらしい、いささか無骨すぎるまかないを持って、夕立あがりの輝くアスファルトの波へと消えた。
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