あいなきあした
俺が立ち上がるまでもなく、ヒロミがいたずらに取り上げて耳にあてがう。
「もしもしー」
けだるそうなゆるみきった声で答えると、
「あー女の人だぁー。もしかして、サンタさんの奥さん?家おとうさん、死んじゃったの。うらやましいなぁー。」
「そうよ」
聞き漏れる俺の娘の声にこたえ、母性を溢れさせた柔らかい響きで答えた。
「えーとね、サンタさんにプレゼント、ありがとうって言っといてね。ママに見つかると取り上げられちゃうから、ちゃんと見つからないようにするから。じゃあね。バイバーイ。」

「あんた、娘いたんだ?サンタさんプレゼントありがとうってさ。」
「聞こえてる…」
また面倒そうな声色に戻ってヒロミはこちらに携帯を投げた…。



ヒロミ、アキラ、じいさん…みんなみんな、さよならだ…
俺の眼の前には、クリスマスイブのくせに、クリスマスイブだっていうのに、雪になりゃあいいのに、みぞれ交じりで、ぐしゃぐしゃの泥まみれで、眼の前が見えやしねえ。
まったく台無しだ。


今日より『あした』、いいラーメンが作れますように…『あした』よりあさって、俺もじいさんも納得できる味であるように、その願いの全てが込められた暖簾が…

じいさんが味見に来なくなって、もう1週間が経った…。
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 今日も今日はで、うんざりするほど蒸し暑い。 五人も作業すればいっぱいの工場の中で、甲高く立ち上る電動ドリルの音。ドリル刃を垂直に押し込み、貫いたら逆回転に切り替えて引き抜く。図面をもとに先にけがいておくから、作業となると機械的に、飽きて意識が飛ばないことを願いつつ、ひとつ、またひとつと押し込んでゆく。 いつからかうんざりするほどの汗が額から流れ、いわゆるドカチンスタイルのはちまき状のタオルは、今にもほどけてしたたり落ちそうだ…。 言葉にしてみるとちょっと『お仕事』しているみたいに聞こえるが、いわゆる俺のしている労働ってヤツは、大きな企業さんたちがコストダウンの名のもとに「つくる」ことは極力外に出して(アウトソーシング)、金勘定の人間以外はリストラする、利潤追求のおかげでおこぼれをいただいているワケで。 ついでに言えば、図面引きの俺が、なんだかんだで離婚して、社訓である 「家庭の平和は社会の平和!家庭なくして平和なし!」 と、一月に一回唱和させられるスローガンにそぐわない人間として、そこはかとなく左遷をくらってるワケである。(もちろん社長の不倫癖も専務に二号さんがいようと) 淡々と作業していくと、集中は途切れ、思考は彼方遠くへと…。 心もとない意識をたぐりよせ、心にあるバネみたいなものをギュっと押さえ込む。これを押さえられなくなったとき、俺はどこかへ飛んでいくのだろうか…?

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