あいなきあした
普段は肩が触れることも嫌がる女との生活は、家族に追い出されるように一人暮らしを始めた俺とは違い、極度の母子密着を伴うものだった。
今日の出来事、俺への不満、我が家族の行く末までが『ママ』の言いなりだった…。
『ママ』は定期的に来ては自分の陣地を広げて、母娘愛に喜びむせびながら、俺の存在を追いやっていった。子供の話も、時代と自分に不安をもって二の足を踏む俺に、『ママ』は自分が元嫁である娘を身篭ったと同時に男を捨てて生きた自分の体験からか、溺愛の海に溺れさせるように育て、俺も同様子種程度にしか考えず、子供を作って娘と孫を取り返すのが『ママ』の目的であった。
結局は家庭と仕事の板ばさみで、倒れることになった俺を幸いにと、『ママ』は俺の時間を何年も根こそぎ奪い去って行った。

たった一人で、狂わんばかりの長い時間を孤独に打ち据えられながら、時だけが過ぎていった…
元妻は愛すべき存在ではなかったが、かろうじて家族ではあった。いや娘というよすがをもって家族だったのかもしれない。

俺は結局誰も愛せないのか、誰からも愛されないのか、床の中で無限の迷宮をひたすらにさまよい歩いた…。『愛』というほど大仰なものではないかもしれないが、その幻は手のひらから砂のようにこぼれ落ち、一人きりの人生だけが眼前には広がっていた。

全てが馬鹿らしくなり、スーツも接待の酒も面倒になり、俺は辞表を叩き付けた。なんの理由もなかった、苦しいだけの会社勤めも、俺の家族への幻想だけがガゾリンに違いなかった。ポンコツで、注ぐガゾリンも俺にはつきたのだ…。
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