愛を待つ桜
5年連れ添った妻・恵美子と離婚し、そのまま家を出たという。
そしてあのときの情事の相手、家政婦の亮子と再婚。

一条グループの後継者と目されていた彼の不祥事に、周囲は大反対したそうだ。

だが、稔は自分が無精子症で子供は望めないことを親に告白し、後継者の座を降りたのだった。
その後、外聞を憚った父・実光が、稔の本社取締役を解任し、社長の肩書きも外してロンドンの支社長として海外に赴任させた。
今年の春には本社に戻ってきたというが、亮子に連れ子がいて不倫の末の再婚ということもあり、実家には全くと言っていいほど顔を見せないらしい。


そして、


「稔さんの離婚の事情が事情だけに、親として申し訳なくて。そんなときに、聡さんが縁談を了承してくれて……」


あかねは、稔に対する負い目を忘れようと、ことさら、聡の縁談を進めてしまった。


「聡さんは母親想いで、とてもやさしい方だから……子供のことさえ知っていれば、あなたにも決して不実な真似はなさらなかったはずよ」


肩を落としつつ、それでも息子の誠意を信じ、あかねは全て自分のせいと言う。
夏海も、「私もそう思います」と、同意するしかなかった。


もうひとり、夏海と同じ歳の聡の妹・静だが――。

ジュリアード音楽院に留学し、今は、ニューヨークを基点にピアニストとして活動しているという。
アメリカ人の恋人もおり、結婚の話が出やしないかと、実光は戦々恐々としているそうだ。


そして、匡の結婚と間もなく子供が産まれることも聞き、


「これだけが明るいニュースかしら」


あかねは嬉しそうに微笑んだ。


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