愛を待つ桜
「いらっしゃいませ。ご予約は伺っておりますでしょうか?」


暗に、予約なしの来客には対応できないと伝えているのだが、その女性はまるで気にしていない様子だ。


「あら、まだ派遣ばかり使ってるのね」


派遣の中で一番若い永瀬が応対に立ったが、不躾な来客の態度に思わずムッとする。
しかし、すぐに営業スマイルを取り戻し、


「失礼ですが……」

「いいわ、一条はおりますかしら?」

「失礼ですが、どちら様でしょうか?」


今度は笑顔を消して、若干きつめの声で訊ねる。


「もういいわ、こちらね」


名乗りもせず、そのままつかつかと所長室に向かって歩き出す。


「勝手に入られては困ります!」


永瀬の声が一段跳ね上がり、他の派遣たちも腰を浮かせた。

そのとき、


「何? どうかしたの?」


反対側のドアが開き、双葉が顔を出す。


その瞬間、室内にゴングの鐘が鳴り響いた。


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