愛を待つ桜
(――決して私を信じてはくれない)


執拗に誠実さを求めたのも、信頼のない証。
今も、悠のために言わない約束をしたから責めないだけで、本音は兄弟を天秤に掛け、誰とでも寝る女だと思っている。


「とにかく、今は時期がまずいんだ。彼女には何の責任もないことなんだ。君も、彼女を巻き込むことは本意じゃないだろう」

「由美さんは幸せね。そんなに大事にされて」


自分が悠を産んだときに比べて、あまりに境遇が違う。
夏海は、愚痴をこぼれさずにいられるほど、人生を悟りきってはいなかった。


「父さんや母さんにしたら初孫なんだ。無事に生まれるのだけを楽しみにして」


聡の言葉に夏海の顔色が変わった。

聡も途中で気付き、てきめん言い訳を始める。


「あ、いや……悠のことは、知っていたら、そりゃあ喜んだだろう。でも、会社を継ぐのは匡だから、匡の子供には」

「もう、いいです。悠のためです。妻としての役目は果たします。仕事が残ってますので、失礼します」


夏海はこのとき、給料に目が眩んで聡の事務所に入り、結果、彼と結婚する羽目になったことを心の底から後悔し始めていた。


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