愛を待つ桜
匡の視線が夏海の肩越しに何かを見つけ、次の瞬間、夏海はいきなり腕を掴まれ椅子から立たされていた。

振り返った夏海の目に映ったのは、全身から怒りのオーラを発する夫、聡であった。


「聡さん!」

「あ、兄貴」

「何をしている!?」


聡の目は怒りを滾らせ、夏海を見据えている。


「何って……ランチを」


まさか、周囲に客が大勢いるランチどきのカフェだ。
しかも、子供もいる。匡と一緒だからといって、それだけでこんな眼差しを向けられるとは、夏海は思ってもみなかった。


「ランチならもう終わっているだろう! そろそろ悠を保育所に戻す時間だ。来い!」


弟には一瞥もくれず、聡は子供用シートから悠を抱え上げ、夏海の手を引いてグングン歩き始めた。

その場に残された匡はコーヒーカップを下ろすことも忘れ、呆然と座り込んだ。


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