愛を待つ桜
聡との出逢いを思い出すのに桜は欠かせない。

一条家で彼と結ばれる直前、階段の踊り場から見た桜は本当に綺麗だった。短い交際の中で、自宅の庭でお花見が出来るなんて夢のよう、と夏海は話したことがあり、聡はそれを覚えていたのだ。


悠の誕生日当日、新居に出向くと庭の隅に桜の若木が植えてあった。

ソメイヨシノだという。造園業者に教わりながら、聡が自分で植樹したそうだ。他にも、子供たちが遊べるように、と木製のブランコも設置してあった。

庭仕事などしたこともない聡は頭から土を被り、業者の好意でシャワーを借りたらしい。

そして……若木の近くにある鯉のぼり用のポールにも、夏海は感動を覚えていた。


だが、この話は夏海の胸だけに納めておきたい。

あの夜『2度と咲かない』と諦めた、桜が咲くその日まで……。



「今日のお昼は聡さんと一緒に食べようって約束したの。ごめんね、双葉さん」

「はいはい。新婚さんの邪魔はしませんよ。犬も食わないって奴よね。心配して損した」


そう言って、爽やかに笑って双葉は許してくれたのだった。……多分。


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