ランデヴー
「夫が優しいのは昔からで、私も彼の優しさに触れたことがあったから。どんどん惹かれていく気持ちを止めることができなかった。でも私はお世辞にも綺麗な方ではなかったから……。それは想いを伝えることもできずに、ただ遠くから見ているだけの恋でした」


響子さんは昔を懐かしむように、スッと目を細めた。



もしもその頃の陽介に出会っていたら……私は今のように恋に落ちただろうか。


響子さんの記憶に引き摺られるようにして、そんなことを考える。



「大学4年の春、私達はある山に登ることになったんです。新歓を兼ねていたから初級者向けの山だったけど、みんな好きなコースを選んで登っていました。4年生は就活中の息抜きだったからすごく楽しそうで……それは私も彼もそして彼女も、みんな同じだったと思います」


登山のサークルに入っていたということは、響子さんも山が好きなのだろう。


だが今の彼女は色白で、アウトドアとは無縁のように見えた。



それは陽介についても同じことで、2人とも山に登るのはやめたということなのだろうか。


まだまだ見えない2人の過去に、私の頭の中にはもやもやと霞がかったような疑問が浮かんでいた。
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