この男、偽装カレシにつき
電話が繋がらなかったのか、センパイは苛立った様子で私に向き直った。


「お前が留守電聞いたのって、いつだよ?」


「…牛丼屋のトイレ」


橘センパイは時計を見て舌打ちする。


当たり前だ。
だってもう、優に一時間は経っている。


「何で早く言わないんだよ」


そんなの愚問だよ。


私は、引き返そうと足の向きを変えたセンパイの背中に向かってつぶやいた。


「行かないで欲しいからに決まってるじゃん」


センパイが行っちゃうと思ったから、言えなかったんだよ。


「だから、伝言もわざと消したんだよ」


せっかくのデートだったのに、雪乃さんにとられたくなかったから。
センパイを独り占めしたかったから。
< 298 / 499 >

この作品をシェア

pagetop