絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「いやー、なんか私、自分がしばらく恋愛とかすると思ってなかったからちょっとどうしようかなって感じなのよねー……」
「いいじゃないですか、すれば」
「うーん、あのさ、私、ずっと好きな人がいてね」
「へー、そうだったんですか」
 佐伯はそれほど興味もないのか、目をレモンティにやりながら声を出した。
「けどその人結婚して、離婚したの、離婚させたんじゃないのよ、もう全然付き合ってもなかったし、連絡もとってなかったから」
「ふーん……」
「で、まあ、離婚してからはちょっと会うようになってね、だけど……まあ、あんまりいい関係じゃないのかな、ちょっと……へんな感じなの。
 それに、他に私と付き合いたいって言ってくれてる人がいてね。その人、頼れるし、その人となら将来もほんとに、結婚とか、現実的だからいいかなって、そこだけ見たらいいかなって思うんだけど、なんか、勇気が出なくて……結局それも保留みたいな感じかなあ。
 だから、確かに今松さんのこと、ちょっといいと思ったけど、どうなのかなあって思って」
「難しいですね……。けど、松さんも独身だし、お金持ちだから結婚も現実的ですよ。前、どうして結婚しないんですか、独身主義ですかって聞いたら、相手がいないからって言ってましたから」
 胸に抱えていた重い告白をしたつもりだが、佐伯にはどれほども伝わらなかったらしい。
「うーん……」
「携帯番号、渡しておきますね」
「いや、またかけたくなったら聞く」
「そうですか?」
「うん……」
「けど香月先輩にそんな裏があったなんて、意外でした」
「え、なんで?」
「いや、いつも断ってばっかりだから、なんかうーん、超理想高いんだろうなっては思ってましたけど」
「理想……」
「お金持ちでー、イケメンでー、誠実でー、紳士」
「うーん……理想ねえ……理想は……、やっぱり前のその、離婚した人かなあ……」
「どんな人だったんです?」
「お医者さん。今はロンドンにいる」
「うっわ、超レベル高い!」
「確かにイケメン、センスもいいし。紳士。頭もいいし……」
「その人は、離婚してるんならいいんじゃないんですか?」
「いや……うーんなんかそういう気にはならないのよね……」
「……、正直、松さんに電話しようと思います?」
「……いや、今日は結構いい感じだったとは思うよ。第一印象は悪くないという意味で」
「社交辞令じゃなくてえ」
「いや、うんほんと、いい感じだったけど……。やっぱり今保留の人をどうするかの方が先かなあって考えさせられたかな」
「えー」
「うーん……」
「保留の人は保留で、とりあえず松さんとデートでもしてみません? そうしたら、その保留をどうするか、決まるじゃないですか」
「うまいこと言うなあ」
「へへ」
 佐伯は大きな瞳をくるんと回して人差し指を立てる。
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