絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ

どうしても、会う

「おかえりぃ」
 仕事から帰ると、ユーリがいつものようにリビングでテレビゲームをしながらも声をかけてくれる。
「ただいまー」
 そのたった一言のやりとりが、今日も帰ってきて良かったと、安心させる。真籐もそうだ、たいていは真籐の方が帰るが早く、ある程度食事を作ってくれていたりする。特に真籐には、食に関しては言葉では表しきれないほどの感謝をしていると言ってもいい。出してくれる料理はいつも味付けがよく、また、リクエストにもちゃんと答えてくれる。根っからの頑張り屋だ、と上から目線もなんだか、実際そうなのだから仕方ない。
「うわあ、いい匂い!」
「今日は鯖の味噌煮やって」
「わーい、嬉しい!」
「あ、お帰りなさい」
 奥から出てきた真籐は、ホームウェアに着替え、髪を後ろで一つに束ねている。
「ただいま帰りました」
 香月はにっこり笑顔で言いながら、まず自室へ、そして制服からティシャツに着替えて髪を束ねてソファに腰掛ける。
「はいどうぞ」
 こうやってちゃんと出してくれるところがまた憎い。
「あ、そうそう、手紙が来てたよ」
 ユーリはゲームが一段落したのか、テーブルの下から青い葉書を出してくる。
「え……誰……」
「はい」
 手渡されたその絵葉書には、ウィンザー城。ゆっくり後ろに返して文字を読む。
『Hisasi  Sakaki』
 その後、何か文書が並んでいるが、所々単語が読めるだけで。
「これ、何て書いてあるんですか!?」
 夢中で真籐を捕まえ、葉書を差し出した。
「え? ……これ? ……えーと、親愛なる、愛 様。お元気ですか。約束していたエアメール、今頃出すことになってごめんなさい。それとも忘れてたかな。僕は今研究が一段落して、休暇をとっています。少し長い、一週間。どこにも行く予定はないけれど。ではまた、サカキヒサシ……ロンドンですね」
「ごめん」
 香月は真籐から葉書を奪うなり、自室に入り、バックをひっくり返して携帯を出した。消印は4日前。コールの間それを考える。
『もしもし』
「もしもし! 今手紙着いた!」
 それだけのことに大声を出してしまったことに、榊は多分笑っているのだろう。
『うん。それは、良かった』
「ごめんなさい、今何時?」
『今……一時。昼の』
「あ、そっか。良かった(笑)、時差考えずにかけたから」
『いつでもいいよ、いつでも出れる』
 その声はいつもと変わらない。

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