絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
 ドアの向こうにまず見えたのは、丸いテーブル。白いテーブルクロス。その上に料理はまだない。皿だけ。
 その、テーブルの向こうに座っているのは。
 彼女がドアを開いてくれたのに、なかなか中へ入れない。
「驚いた? どう? 実に6年ぶりの再会ね」
 さすが彼は、一瞬驚いた表情を見せただけですぐに目を逸らす。
「ささ、中へ入って。料理を運ばせるわ」
 ようやく一歩踏み出す。そしてまた、一歩。
「やだ、何固まってるの(笑)、そんなに驚いたかしら」
 何も言わず、ただ席へ。榊久司の隣でもあり、樋口阿佐子の隣でもある、席へ。
 誰かが引いてくれた椅子にゆっくりと腰掛ける。
「お嬢様も、一言言ってくださったらよかったのに」
 いつぶりだろう、榊のこんな丁寧な言葉遣い。
「いいえ、これは突然だから面白いのです。6年ぶりよ、6年ぶり」
「いえ、つい先日も会いました」
 ここで言うのかと、すぐに彼の方を見る。
 だが彼は阿佐子を見ていて。
「え!? どこで?」
「ロンドンです」
「……偶然?」
「……あ、そう、偶然です。彼女がロンドンに旅行に来ていて、そこで再会を……」
「なあんだ、そうだったの。何も言ってくれないから……。もう、空振りじゃない!」
「いえいえ(笑)、突然で僕も驚きましたよ、ちっとも空振りじゃない」
 次は私の番。
「ね、愛……どうしてこの子一人驚いてるの?」
 取り繕わなければ。
「えっ、いえっ、あ、ケーキ足りるかしら……いえ、5つ買って来たから大丈夫ね」
「大丈夫よ。さあ、食事にしましょう。ね、ほんと楽しい。このメンバーがまた揃うなんて夢みたいでしょう?」
「……そう……ね」
「そうですね。6年……そんなになるのか」
「ねえ、今日は榊先生も空いてらっしゃるって言うから、昼からショッピングして、映画でも見て、ディナーをして、バーに行って、ダーツ……いえ、何がいいかしら。色々したい」
「僕は、明日の飛行機で帰るからそんなに長居はできないけど……」
「飛行機の時間までフリーなんでしょ? なら大丈夫、部屋があるからそこに泊まって。明日の朝一番でホテルまでお送りしますわ」
「いや、少し仕事をしたいから。うーんと、今日中にはホテルに帰ります」
「そう? じゃあ仕方ないわね。愛も明日仕事?」
「え、あ、うん、そう……、仕事だから……」
「仕事は何だったかしら?」
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