絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
『落ち着け。落ち着いて聞くんだ』
「何?」
 足元にあるゴミ箱を見つめながら、眉間に皺を寄せる。
『阿佐子が事故にあった。今意識不明の重症だ』
「……」
 え?
『俺も今手術から出てきて今知った。今朝運ばれたそうだ。BMに乗って、自分からトラックに突っ込んでいったそうだ。今はICUでいる。お父さんとお兄さんと、あと付き添いの人が今もついてる。もしもし?』
 私、あれから会ってないのに?
『もしもし!? 大丈夫か!?』
「愛? どうした!?」
 宮下の声が遠くに聞こえる。
「おい!」
「……あ、ん……うん」
『大丈夫か?』
「え、今どこ?」
『桜美院にいるよ。あのままロンドンには帰らずじまいになってな』
「え、うそぉ?」
『ほんとだよ。しばらくはこっちにいる予定になってるから』
「え、何で言ってくれなかったの?」
 話がずれていることは分かっていたが、今それを聞かずにはいられない。
『いや、言うタイミングもなくて』
「電話してくれたらいいじゃない!」
『……悪かったな』
「ごめん。分かった。行く。仕事は休むから。ICU……」
『受付で聞けば分かる』
「うん、分かった、すぐ行く」
 電話を切って思い出す。そうだ、髪の毛がまだ結えていない。制服に着替えたのに、また私服に戻すのも面倒だ。しかも、時間がない。
「愛?」
「事故にあったって。だから行くから」
「あ、ああ……榊もいるのか?」
「みたい」
 香月は一度家に帰って着替えようと、荷物をとりあえず準備し始める。
「あの人、ロンドンにいないのか?」
「知らない」
 もうその先を説明するのは面倒だと思った。
 手にバックを持って、玄関へ走り、靴を履く。
「愛……」
 何の真似なのか、宮下は香月の顎をつかんで唇にキスを……。
「やめてよ! こんな時に!!」
 自分は本当に阿佐子のことであせっている?
「悪い。だけど……」
 ではなく、もしかして榊が日本にいるから?
「……」
 香月はそのまま玄関のドアを開けてさっと外に出た。
 まるで宮下一人が、全て悪いかのように。
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