絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
 バックの中に入っている小箱を今出すべきかどうか考えながら、手を引かれ、そのまま大型船へと入っていく。
「部屋で伺いましょう」
 部屋……とはどういう誘いなのだろう……、頭を必死で回転させながら、豪華なシャンデリアが続く船内の廊下を歩く。
「今日は昼までゆっくりとくつろいでください。今日の夜、またカジノが開きます。その時まで自由にしていてください」
「あ、はい……」
 自由にって……船内を散歩……とか?
 しばらく進むと部屋に着く。
「こちらです」
 案内の通り、中に進む。
「うわあ……素敵……」
 シャンデリアがまぶしいほどに輝く、エレガントな部屋。一番に天蓋付きのベッドが目に入り、続いてドレープがきいたカーテン、深いカーペットへと続く。
「気に入っていただけましたか」
「ええ、とても!」
 香月は何も考えずに、花柄のベッドに魅せられて中へ進む。
「ベッドもとても素敵ですね」
「女性向けにしてある部屋です。ほめていただけてとても光栄ですよ」
「あ、それで、プレゼントなのですが……」
「はい」
 彼は応接セットの長いソファに腰掛ける。
 香月もそれに応えるように、すぐ隣に腰掛けた。
「あの、気持ち、だと思ってください。私には、そんな高価な物は買えません」
「物の価値は値段だけではありません」
 彼は優しく言う。
「これなんです」
 私は小さな紙袋から小箱を出して、手渡した。
「開けても?」
「はい、つげ櫛です」
 先に種明かししておく。
「この前、お会いしたとき、長い髪がとても印象的だったので……。専門の職人の方にオーダーメイドで作っていただきました」
 値はそれほどしない。4万5千円。櫛にしては相当高価だが、現金にすれば海に投げ捨てるのも容易い。シンプルな木製。漆を塗って、朱色の模様を入れて、外国人受けするよう、日本らしさを表現した。更にそこに金箔でも入れれば高級感たっぷりだろうが、そんなこと、できるはずもない。
「ああ、これはとてもいい」
「あの、もし、気に入ってもらえたら……お使いください」
 彼はさっそくその長い髪に櫛を当てる。
「それほど櫛にこだわりはありませんが、これは、素晴らしい。元はどんな木でできているのですか?」
 まさかそんな質問を受けると思っていなかったので、慌てて
「何だったか……えーと……すみません、今すぐは出てこないのですが、特別な、木でできているそうです……すみません」
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