絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
「……そう(笑)。車、入ろうか、本当に風邪ひくよ。私はいいけどレイジさん、仕事休めないでしょ?」
 そのまま車に乗って家に帰ったら、また同じことの繰り返しだと思った。ユーリがパソコンの前で日がな一日作業をしていて、レイジを時々テレビで見かけて……。
 香月は、ようやく離された腕から抜けると、先に車へ戻ろうとする。
「引っ越すんだ」
 その声に振り返る。彼の顔は笑っている。だがそれを冗談だとは思わなかった。
「本当?」
「……正確には嘘。今物件を探してる」
「……ありそう?」
「ううん、まだない。だから、もうしばらくはあそこにいる」
「……一緒に暮らしてるの、嫌だった?」
 彼の表情は明るい。
「うん……やっぱりね、僕はずっと真剣だったから……。悩んだよ。どうすればいいのか。その結果が引っ越しだった」
「……ごめん」
 咄嗟に謝った。彼をもてあそんでいるつもりなどさらさらなかったが、引っ越しをするほど悩んでいたと知らされると、さすがにそう言わずにはいられなかった。
「謝らないで。何も悪くはない」
「……」
 彼は一歩先へ、車に近寄る。
 香月はその後姿に話しかけた。
「ごめん、好きにはなれない」
 それが、彼に対する礼儀だと思った。
 たとえ、この先好きになったとしても、彼には言わない。
「うん。分かってる」
 彼はそのまま車に入る。
 香月もすぐに後を追った。
「長い一年だったなあ……」
 レイジはギアをドライブに入れてから呟く。
「まだ今年も、来年もあるよ」
 香月はまるで人事のように彼に呟きかけた。
 来年、彼と2人で桜を見に行くことがあるだろうか……。
 いや、ない。
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