絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
 自分でも笑えるほどの大否定に、真籐は優しく微笑んだ。
「明日も休みなので荷物を持ってきます。とりあえず、服とパソコンと、本……くらい」
「じゃぁ、私たちも今日中に片づけしておきますので、なんとか」
「ありがとうございます」
 真籐は場違いなほどににっこりと笑った。
 真藤の人生設計がどのようなことになっているのか知ったわけではないが、年下なのに、もしかしたらユーリよりも大人びているかもしれない彼に、距離を感じた。
「あの、……よろしくお願いします」
 ユーリが頭を下げたのに対し、香月はおかしくて噴出して笑った。
「何で笑うん!」
「いや、そうだよね……(笑)。真籐さん、すみません、よろしくお願いします」
「いいえこちらこそ。香月さん、明日は仕事ですか?」
「はい、仕事です。えーと、7時まで」
「分かりました。では、……夕方くらい、ならどなたかいますか?」
「俺はおるつもりやけど、寝てるかも」
「あ、鍵ですか?」
「いえ、鍵はもう持ってます」
 既にレイジから手渡されていたことに、驚きながらも、レイジの信用を信じて、
「あぁ、じゃあ、ご自由にどうぞ(笑)。真籐さんの家でもあるんですから」
 香月はお返しのつもりでにっこりと笑ってみせる。真籐もそれにすんなり応えた。
「あと……食事はどうされているんですか?」
「えーと、最近は私とユーリさんが交代ですよね」
 香月はユーリに確認したが、
「交代というほどでもなく、僕が大半担当してますけど。真籐さんは、できます?」
「炊飯器で米が炊けるくらいです」
「あ、そうですよ、洗濯機の使い方とか分かるから、洗濯とかできますよね」
「そんなんボタン押すだけやん」
 ユーリは笑いながら言う。
「いや、最近の洗濯機なんか使うの難しいですよね」
 香月は真顔で言った。
「(笑)、まあ、色々な機能はついていますけど」
 真籐は優しくフォローしてくれる。
「炊飯器だって難しいですよ」
 香月は続けたが、ユーリはそれを無視して、
「まあ、とりあえずは、できるときにできる人がする、みたいな感じかなあ……家帰ってできてたらラッキーくらいな感じです。掃除はハウスキーパーの人が週に一回来てくれてます。今のところは」
「あ、冷蔵庫に名前書いた物が入ってますけど、特にそんな習慣があるわけではないですから」
「あれ習慣やない?」
「そうかな……」
「(笑)、家族が多いと楽しいですね」
 真籐はようやく、私的な笑みを見せた。
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