十人十色の十恋物語<短編集>
幼い時から車イスの私は、
いろんなこと頑張っているけど一人で行動できない。

動かない私の足を憎らしいとも思ってしまうくらい。

いつか医学が進歩して私の足は再び動くことを信じているけどね。


そんな私には
月に一回兄がドライブに連れてってくれるのが唯一の楽しみ。


毎月自宅まで届けてもらっている旅行雑誌を、
スミからスミまで穴があくほど見ている。

こんな街並みを歩けたら…。
大好きな人と
視線があまりかわらない高さで見てみたい。


「 実那…今日はどこに行こうか? 」


兄の秋翔が車のカギを見せながら聞いてくる。


「 にぃにが行きたいところでいいよ。 」


毎月私が兄に言うセリフ。

連れてってほしいところなんて、
いっぱいある。
でも言えない。

車イスで
ホントは海に行きたいなんて。


いつかな?
だいぶ前にいつもの旅行雑誌に

彼氏とドライブしたい場所。

なんていう特集があって

私は兄とのドライブを想像していた。


その雑誌に小さく…
ホントに小さく兄の車が写っていた。

女の子が車からおりるところだった。

キレイな長い髪。
キレイな足にミニスカート。

私にはないものばかりの女の子だった。


兄にその海に行きたい。
兄が彼女さんと行った海に!
なんて言えなかった。
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