お仕置きゲーム。
1-1正当防衛。





私は小さい頃、お仕置きの時間は押入れの中に閉じ込められていた。小さい私にとって押入れの中は恐怖でしかなかった。けど、お仕置きの最中に外にでるともっと怖い思いをすることを幼い私でも痛いほど理解していた。

外から漏れる知らない女の人の悲鳴と、暴力をふるう音。お父さんの怒鳴り声。外に出れば今度は私が暴力の対象になってしまう。そんなの絶対に嫌だ。押入れの中、耳をふさいで必死に現実から逃避しようとしていた。目をぎゅっとつむり聞こえないふりをして、ずっと、ずっと耐えていた。


お仕置きは私が学校から帰ると必ず実行されていた。「ただいま、おとうさん。」「さっさと押入れの中にいってろ。」「...うん。」「出たらどうなるかわかってんだろうな。」「うん。」


たすけて、たすけて。女のひとの悲鳴は絶え間なく続く。一時間弱でその声は次第に小さくなり聞こえなくなる。かすかに匂う鉄のにおいが嫌いだった。



始めはそんな生活が嫌だったけど、こうも毎日繰り返されると嫌でも慣れてしまうものだ。子供ならなおさら。それが普通だと思っていた。



「きょうもおしおきだね。」


押入れの中でぽつりとつぶやく。「おなかすいたね。」誰かがいるわけでもないのに、誰かに語りかけていた。「きょうのご飯は何かなぁ。」「昨日はコンビニのお弁当だったよね。」「今日はマックがいいな。」世間的に見ればイカれているように感じるだろう。けれど、何度も言うが私にとってはコレが普通だったのだ。





そんな生活を繰り返して早5年が経った。小学生だった私は中学生になった。お仕置きは相変わらず続いている。お仕置き以外は、私はほかの同級生たちと何も変わらなかった。普通に学校に通い、友達をつくり、部活をして、の生活。

「真咲、お仕置きの時間だ。」

「わかった。」

成長したせいもあり少し押入れが狭く感じたが、我慢するしかなかった。
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