お仕置きゲーム。


暗い押入れの中で、俺はまるくなる。

がちゃり。ドアが開く音が聞こえて知らない女の人の声と父さんの声が聞こえた。何かを話しているようだ。少しだけ気になって、俺は押入れの隙間から外を見た。


「ん、」

父さんが、知らない女の人とキスしてた。そして、そのまま押し倒している。「ッ、は、話が違ッ、」女の人は焦り、抵抗していた。「黙れ。」聞いたことのない、父さんの低い声に俺までビク、と肩を揺らす。

「金は前払いってッ、だから援交してあげるって言ったのに!」「払う金なんかないさ。大人しくしてれば痛くはしないよ。」「ッ、ア、やめて!いや!」

目の前の光景に吐き気がこみ上げてきた。思わず両手で口を押える。脳内で、過去がフラッシュバックする。あの女の人が美紀で、父さんが美紀を殺したオジサンに見えてくる。

「ッ、」

怖い、怖い。全身が異常なほど震えだす。記憶を抉るような光景に、我慢できず俺は嘔吐した。父さんは抵抗して暴れる女の人を殴りつける。

(また、俺は、見殺しにするの?)

美紀が殺される。また、美紀が死んじゃう。


押入れの扉に手をかけた。このまま飛び出して、父さんを止めなきゃ。でも、体がおもうように動かないのだ。どう、しよう。



暫くすると、女の人の声は聞こえなくなった。かすかにかおるのは鉄の匂い。俺は目をぎゅっと瞑った。目の前の光景を必死に否定する。

(違う、違う。俺は悪くない、大丈夫。大丈夫。美紀じゃない、美紀じゃ、ない)

___まさき。


刹那、美紀の声が脳内に響いた。

___まさき、私を見殺しにした。

「ちがッ、」

___私をかえして。私のからだをカエシテ!


一瞬、呼吸ができなくなった。頭がぼんやりしてきて何がなんだかわからなくなる。
< 69 / 144 >

この作品をシェア

pagetop