三日月の下、君に恋した
 頭がぼうっとしている。ほんの数分前なのに記憶があいまいで、夢と現実の境目をさまよっている気分だった。

 何も考えられない。考えたくない。


 それでも、たった今この会社をクビになったのだということは、理解できた。


「……あー……くそ。終わりだ」


 いつばれてもおかしくないことだから、覚悟はしていたつもりだったのに、想像以上にこたえた。

 熱と疲労と精神的ダメージが体を支配し、絶望に浸食される。立ち上がることができずに、いつまでもその場に座りこんでいた。


 ふいに携帯電話が鳴っていることに気づいた。

 見上げると、窓の外がすっかり暗くなっている。眠ったのかもしれない。頭の中がぼんやりしている。目がかすむ。まだ夢の中だろうか。


 電話に出ると、相手は無言だった。

「もしもし?」


 電話の向こうに気配を感じたのでそのまましばらく待っていると、小さな声で「沖原です」と答える声がした。
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