三日月の下、君に恋した
 よりによって、と菜生は思った。恥ずかしくて顔を上げられない。

 目の前で菜生に背中を向けているのは、営業企画部の早瀬航(はやせわたる)だった。部署もちがうしフロアもちがうので、社内で会うことはめったにない。でも、彼は社内では──特に女性社員の間では、有名だった。


「今度は人事部の柳本さんだって!」

 今日の昼休み、同じ通販課の後輩でルームメイトでもある城ノ内美也子が、食堂で面白そうに話してくれたばかりだ。

「先週は総務部の内海さんって言ってなかった?」

 菜生が疑いの目を向けると、美也子はますます楽しそうな顔つきで、ちょっと得意げに言った。

「だから、もう別れたってことですよ」

「えっもう? たしかその前は……」

「すごいペースですよねー。しかも美人ばっかり。っていうか、本気で付き合ってるってわけじゃなさそう。あのですね、ここだけの話ですけど……」

 美也子は頭をかがめて声をひそめた。
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