三日月の下、君に恋した
「知ってるの?」

「知りません」

「何よ、もうっ」

 菜生はいらいらと叫び、最後にどこで見たのか思い出そうとして頭に手をあてた。

「帰ってからでいいじゃないですか。遅刻しちゃいますよ」

「先に行ってて」

 菜生が言うと、美也子は小声でぶつぶつ言いながら部屋を出ていった。

 金曜の昼休みには、バッグの中に入っているのを見た。確かにあった。それが最後だとしたら……。


 思いあたることがひとつあった。


 ホテルの部屋を出るとき、気が動転してドアの前でよろけ、バッグを派手に落とした。あわてて拾い上げただけで、よく確かめもしなかった。


 菜生は崖から突き落とされたような気分でため息をついた。
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