三日月の下、君に恋した
 もう思い出したくないのに、また記憶がもどってしまう。

 土曜と日曜はずっとこの記憶に支配され、悩まされ、傷つけられた。二日かけてやっと、すこしだけ落ち着いてきたというのに。


 午前中の仕事は、まったくはかどらなかった。

 気分を変えるために昼休みは外食にしようと思ったのに、美也子に食堂へ行こうと誘われた。美也子はどうしても金曜の夜のことを探り出したいらしかった。

 もちろん絶対にしゃべる気はない。誰にも。


 月曜の食堂は、いつにもまして混雑していた。

「席、開いてませんねえー」

 ランチをのせたトレイを手に持ったまま、菜生と美也子は空席を探した。

「あっ、太一がいる!」

 急に美也子が大きな声で叫び、人混みをかきわけて窓際のテーブルへとすたすた歩いていく。

 菜生が後ろからついていくと、窓際の席にいる童顔の若い男性が、こちらに気づいてにこにこしながら手を振っていた。
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