三日月の下、君に恋した
 迷惑だなんて、きっと思っていなかった。贈り物を選んでいたときの彼女は、ほんとうにうれしそうだったから。そのことを、今ここで菜生に伝えるべきだと思った。


 でも、できない。


 今は、何も言うことができない。


「あの……」

 菜生が、不安げな表情を浮かべて航のようすをうかがっていた。返してもらえないと思ったのかもしれない。航は何も言わずにハンカチを持った手を差し出した。


「ありがとう」


 彼女は両手で、大切そうにハンカチを受けとった。そして、うれしそうな笑顔を航に向けた。

 とっさに菜生の手をとっていた。彼女がびっくりして体をかたくする。大きく見開かれた黒い瞳に、自分が映りこむ。


 だめだ。やめろ。


 抗議する心の声が、魔物に食い尽くされた。

 つぎの瞬間には、唇を重ねていた。
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