三日月の下、君に恋した
「ちょっと、見せて」

 菜生がポケットから出した色褪せたハンカチを、彼はむしりとるように奪った。そしてそのままドアの前まで歩いてゆき、大きくドアを開け放った。

「今日のところはもどりなさい。用は済んだから」

「え?」


 菜生はソファから立ち上がった。梶専務は菜生を待たずに、先に部屋を出ていってしまう。


「あの、すみません。待ってください」


 菜生はあわてて部屋を出ると、大股で廊下を歩いていく専務を追いかけた。

「それ、返してください」

 専務はぴたりと足を止め、氷のように冷たい目で菜生を見下ろした。


「どうして? 代わりのものをあげたのに」

「でも、それは私の……」

「もういらないだろう。これは僕が処分しておくよ」


 菜生は呆然とした。

 何を言っているのかよくわからなかった。

 何もかも一方的だった。菜生の言葉などまったく聞いていないし、聞こうともしていない。
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